厚生労働省関係機関(本省、試験研究機関、福祉施設、日本年金機構、全国健康保険協会)に働く職員の労働組合

【声明】拙速な年金改正法の成立に抗議!/憲法にもとづいて、生活を保障する年金制度への転換を求めます

2025.06.26

先週閉会した第217回通常国会で可決・成立した「年金制度改革関連法案」について、全厚生は以下の声明を発表しました。

 

 

マクロ経済スライドを廃止し、憲法25条に基づき国民生活を保障する年金制度への改善を求める(声明)

全厚生労働組合

 

5月16日に政府が国会に上程した「年金制度改革関連法案」(以下、「改正案」)は、6月13日、参議院本会議で賛成多数により可決、成立した。

「改正案」は、働く高齢者の年金減額を緩和することや、保険料負担割合が少ない高収入の被保険者に応分の保険料負担を求めることなど、見るべき内容も含んでいるが、今般の物価高騰に苦しむ年金受給者の声に応え、現役・将来世代も含む国民の安心を担保する抜本的な改正には程遠いものである。審議時間も十分確保されず、問題の所在すら国民に知らされないままの拙速な可決成立は、将来に向けて大きな禍根を残すものであり、厳重に抗議する。

 

厚生年金の適用拡大はすでに一定規模の企業において進められているが、これまでの施策が「106万の壁」と呼称されるなど、障壁として受け取られてきた現実を直視すべきである。厚生年金加入を望まない層を一方的に適用対象としても、国民年金第3号制度なども含めた全体的な制度見直しを伴わない限り、「働き方や生き方、家族構成の多様化に対応する」どころか、働き方を制限する新たな障壁と認識されるばかりである。また、「社保倒産」と呼ばれる事態がしばしば報道されるとおり、中小企業にとって従業員の社会保険料は過酷な負担となり得るものであり、従業員側の保険料の軽減費用を3年有期で補填するという激変緩和策は決して十分なものとは言えない。

同じく「多様化に対応する」としている遺族厚生年金の見直しも、男女差の解消という当然の改善事項を名目に、まるで交換条件のように無期から5年有期への変更を伴わせるなど、看過できない内容である。多様な生き方を後押しするどころか、年金に頼らず自活することを遺族に無理強いするものであり、到底認めがたい改悪である。また、勤労収入・年金収入ともに女性が圧倒的に低位にある現状の男女格差を放置しながら、遺族年金のみ男女同一とすることは、格差をむしろ助長する結果になることも明らかである。

 

今回の「改正案」は、2004年改正法に定められた昨年の財政検証を受けたものであり、厚生年金の適用拡大は「多様な働き方」を口実としているものの、年金財政の維持という目的が背後にあることは明らかである。遺族年金についても、改善があればその分改悪を盛り込む手法からは、ともかく収支を合わせようという政府の頑なな姿勢が伺える。

しかし、根底にある2004年改正法、その中心となるマクロ経済スライドは、昨年の財政検証において、厚生年金と基礎年金とで大幅な終了時期のずれを生じ、とりわけ基礎年金については今後30年もスライドが続き、実質3割減額となるなど、およそ容認しがたい見通しが示された。2004年改正時に想定されていなかった事態であることは明らかであり、制度設計そのものの抜本的な見直しが行われてしかるべきである。野党との修正協議で、法案から除かれていた「スライド終了時期の一致」「基礎年金の底上げ」が再度盛り込まれたが、マクロ経済スライドを温存した上での弥縫策にとどまる上に、次回の財政検証へと問題を先送りしており、修正の名に値しない全く不十分なものと言わざるを得ない。

 

生活保護水準にも満たないわが国の低年金に対しては、かねてから抜本的な見直しを求める声が上がっている。マクロ経済スライドはこの水準をさらに押し下げるものであり、憲法25条に基づく生活保障としての年金の役割を最初から放棄している。こうした国の姿勢が、将来への展望を妨げ、国民の年金不信を招く根本原因である。マクロ経済スライドに象徴される2004年改正法の枠組み自体を見直し、あらためて社会保障の原則にしたがった年金制度、すなわち、①生活保障としての年金(生活できる年金額の確保)、②応能負担による財源確保(消費税ではなく富裕層・大企業への課税)が求められている。

抜本改正のためには、諸外国で実現している、居住要件のみによる「最低保障年金制度」なども視野に、望ましい年金制度を選択する国民的な議論を呼びかける必要がある。あわせて、国際的にも異例の規模に膨れ上がっている年金積立金について、その必要性及び必要な水準を明確化・透明化し、その所有者である国民全体の理解のもとで、年金給付の維持・向上という本来の目的のために速やかに取り崩しを検討すべきである。

 

私たち全厚生労働組合は、年金受給者のみならず、将来に不安を抱えるすべての世代の仲間と連帯して、国民に開かれた、透明で分かりやすい年金制度、安心できる、希望の持てる年金制度の実現へ向けて、引き続き奮闘する所存である。